東京から直線距離で約300km。食材の宝庫といわれる佐渡の旬の味覚が都内で味わえると聞き、さっそく訪ねてみた。佐渡の居酒屋が、店ごと移動して来たかのような錯覚にとらわれるのが「いち」だ。こぢんまりした店内には、港町の活気が満ちあふれている。食材は毎日現地直送、ご主人も店を手伝う奥さんも佐渡出身。正真正銘のオール佐渡だ。この店の自慢は地魚の刺身。季節によってとれる魚が変わるので、定番は存在しない。「暖流と寒流が交わる佐渡は、魚介類の宝庫。今ならカワハギの刺身が食べられますよ。全国各地を食べ歩いたけど、佐渡の魚にかなうものはないですね」というはご主人の菊池市春さん。
この人、脱サラで10年前、50歳の時に店を開いた。「何で50歳になって?」と聞くと、「定年後に開店したら趣味の延長だと思われるのがイヤだから」。「何で佐渡料理なの?」と聞くと、「佐渡の食材が日本一だから」といたってシンプルな回答。勤め人時代は出張で全国を飛び回った。いい店があると聞けば、すぐに駆けつけたという。各地を食べ歩きながら構想を練り、満を持して開店したというわけだ。地元出身者の強みを活かして食材は仲買を通さず買い付けるため、価格もリーズナブル。その噂は口コミで広がり、今では意外な著名人も常連に名を連ねている。
佐渡料理といえば「いごねり」。いごという海藻を煮詰めてトロトロにして、冷やして固めたもの。さっぱりとしていて、つるっと喉に入っていく。これを食べるために店を訪れる在京の佐渡島民もいるという。常連さんが必ず注文するのが「とんび唐揚げ」。これはイカの口先を骨抜きして唐揚げにしたもので絶好のおつまみ。とんびは、一杯のイカから1つしか取れない。一皿に12個。どうやって工面しているのか聞いてみると、「地元で親戚がイカの加工所を経営しているので、そこで集めて冷凍保存しているから安定供給できるんです。日本国内でコンスタントにとんび料理を出せるのはウチだけでしょうね」。とんびは唐揚げだけでなく、ネギ間焼きや煮物でも味わえる。イカの子のすり身を茹で上げた「いかの子かまぼこ」は、ふんわりとした歯ごたえで美味。ここでしか味わえない佐渡の味覚がいっぱいだ。
この店で佐渡料理と地酒の美味しさに開眼した人も多く、毎夜、酒宴が繰り広げられる。米焼酎に大吟醸の絞りかすを入れてブレンドした佐渡焼酎「つんぶり」や佐渡の風土に育まれた日本酒「北雪」が、佐渡の味覚をよりいっそう引き立ててくれる。11月からは「あんこう料理」、12月になると「鱈、白子料理」が始まる。佐渡の冬の味覚に乞うご期待。




